膝のステロイド注射とは|効果・副作用・打つ回数の上限と次の選択肢
膝のステロイド注射は強力な抗炎症効果と即効性が魅力ですが、軟骨への影響や年間回数制限など注意点もあります。ヒアルロン酸との違い、副作用、打ち続けるリスク、PRP・手術など次の選択肢まで、医学データに基づき解説します。
この記事のポイント
膝のステロイド注射(関節内注射)は、強力な抗炎症作用で数日以内に痛みを抑える即効性の治療です。効果の持続は数週間から2〜3か月で、年間の目安は3〜4回まで、間隔は3か月以上あけるのが一般的とされています。頻回に打つと軟骨がもろくなる、感染、血糖値の上昇などのリスクがあるため、炎症が強いときだけの切り札として使う位置づけです。
目次
「膝が腫れて曲げ伸ばしもつらい」「ヒアルロン酸が効かなくなってきた」。そんなとき整形外科ですすめられるのが、膝のステロイド注射(関節内注射)です。数日以内に痛みがすっと引くため、歩くのも階段もぐっと楽になったと感じる方が少なくありません。
一方で、「何回まで打って大丈夫?」「軟骨が溶けるって本当?」「糖尿病があるけど打てるの?」といった不安の声もよく聞かれます。ステロイド(副腎皮質ホルモンの薬)は、炎症を強力に抑えるぶん、使い方を間違えると膝の将来に影響する可能性があります。
この記事では、日本整形外科学会の2023年診療ガイドラインや海外の臨床研究をもとに、膝のステロイド注射の効果・副作用・回数の目安を冷静に整理します。ヒアルロン酸との違いや、打ち続けた先の選択肢(PRP・手術)まで、50〜70代の方にも読みやすい言葉でまとめています。
膝のステロイド注射とは|どんな薬をどこに打つのか
ステロイドは「炎症を強く抑える薬」
ステロイドとは、もともと体の副腎(ふくじん:腎臓の上にある小さな臓器)で作られるホルモンに似せて合成された薬の総称です。人間の体がストレスや炎症に対応するときに分泌するホルモンを、より強力にしたイメージと考えるとわかりやすいでしょう。
膝の治療で使われるのは「コルチコステロイド」と呼ばれるタイプで、関節のなかで起きている炎症反応を短時間で鎮めてくれます。痛み止めの飲み薬や湿布が「弱い火を少しずつ冷ます」イメージなら、ステロイド関節内注射は「燃えている火元に直接水をかける」ような強力さがあります。
膝に使われる代表的なステロイド製剤
日本の整形外科で膝関節内注射によく使われるのは、トリアムシノロンアセトニド(商品名:ケナコルト)やベタメタゾン(商品名:リンデロン)などです。いずれも同じ「コルチコステロイド」の仲間ですが、効果の強さや持続時間に差があります。
| 製剤名(一般名) | 特徴 | 持続の傾向 |
|---|---|---|
| トリアムシノロン | 関節内にとどまりやすい粒子タイプ | 数週間〜3か月程度 |
| ベタメタゾン | 水に溶けやすく即効性が高い | 数日〜数週間 |
| デキサメタゾン | 作用が強く短時間で効きやすい | 数日〜2週間程度 |
どの製剤を選ぶかは、医師が症状の強さや過去の治療歴を見て判断します。いずれも局所麻酔薬と混ぜて注射することが多く、膝のお皿(膝蓋:しつがい)の横や上の隙間から関節のなかへ直接届けます。
関節内注射と神経ブロックとの違い
整形外科の「ステロイド注射」という言葉には、じつは複数の種類があります。膝の痛みで用いられるのは、膝の関節の袋(関節腔:かんせつくう)のなかに薬を入れる関節内注射です。
腰や首で使われる神経ブロック注射や、肩のこり・腱鞘炎(けんしょうえん)に使うトリガーポイント注射とは、刺す場所も効かせ方も違います。この記事で扱うのは、あくまで膝の関節内に打つタイプです。診察の際には、医師がどこに注射するのかを確認しておくと安心です。
ステロイドはなぜ膝の炎症を抑えるのか|作用機序
ステロイドが膝関節の炎症を強力に鎮める仕組みは、細胞のなかで起きる「炎症スイッチ」を切ることに尽きます。関節液のなかで活動している軟骨細胞や滑膜細胞、白血球は、ストレスを受けるとNF-κB(エヌエフ・カッパービー)と呼ばれる転写因子を活性化させ、炎症性サイトカイン(IL-1β、TNF-α、IL-6など)やプロスタグランジンE2を次々に作り出します。これが膝の腫れ・熱感・痛みの正体です。
ステロイド(コルチコステロイド)は細胞内のグルココルチコイド受容体と結合し、このNF-κB経路を直接抑え込みます。同時に、抗炎症性タンパク質であるアネキシンA1の産生を促し、ホスホリパーゼA2を阻害してアラキドン酸の遊離を断ちます。結果、プロスタグランジンとロイコトリエンの両方の産生が止まり、炎症の連鎖が短時間で鎮まります。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)はこのうちプロスタグランジン経路の一部にしか効きませんが、ステロイドは上流の遺伝子発現レベルで複数の炎症経路を同時に止めるため、効きの強さと速さが段違いです。一方で、軟骨細胞のアグリカンやII型コラーゲンの合成も抑え込んでしまうため、繰り返し使うと軟骨基質の代謝バランスが崩れる懸念につながります。
膝に使われる主なステロイド製剤の比較
膝の関節内注射に使われるコルチコステロイドは、薬物動態の差で「短く強く効くタイプ」と「長くじわじわ効くタイプ」に分かれます。日本の整形外科で頻用されるのは粒子径が大きく関節内に留まりやすいトリアムシノロンアセトニド、リンスや関節周囲にも使いやすいベタメタゾン、そして欧米のガイドラインで標準とされるメチルプレドニゾロンの3剤です。
| 一般名(商品名) | 膝の標準量 | 溶解性 | 効果の傾向 |
|---|---|---|---|
| トリアムシノロンアセトニド(ケナコルト-A) | 40mg | 難溶性・粒子型 | 関節内に長く滞在し2〜3か月の持続を狙いやすい |
| メチルプレドニゾロン酢酸エステル(デポ・メドロール) | 40〜80mg | 難溶性 | 米国ACRが膝OAで第一選択として推奨 |
| ベタメタゾンリン酸エステル(リンデロン) | 2〜4mg | 水溶性 | 立ち上がりが速いが滞在時間は短め |
2017年にMcAlindonらがJAMAで発表した無作為化比較試験では、トリアムシノロン40mgを3か月ごとに2年間投与した群と生理食塩水群を比較し、ステロイド群で軟骨容量の減少が有意に大きく(軟骨厚-0.21mm対-0.10mm)、痛みのVASスコア改善には差がなかったと報告されています。この結果が「同じ膝に長期で打ち続ける戦略」へのブレーキになりました。
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膝のステロイド注射が使われる主な疾患
「ステロイド関節注射=変形性膝関節症の治療」というイメージが強いものの、実際には炎症が膝関節内で起きているさまざまな疾患で適応があります。逆に、ステロイドを打ってはいけない疾患も明確に決まっており、診察と検査で見極めることが安全な治療の前提になります。
適応がある主な疾患
もっとも頻度が高いのは変形性膝関節症(とくに炎症性に水が溜まったタイプ)と関節リウマチです。ほかに、結晶性関節炎(痛風・偽痛風)の急性発作、ベーカー嚢腫(膝裏に水が溜まる症状)の急性増悪、外傷後の滑膜炎、単関節型の若年性特発性関節炎なども対象になります。とくに偽痛風(CPPD関節炎)はNSAIDsだけでは抑えきれないことが多く、ステロイド注射1回で症状が劇的に改善するケースが少なくありません。
禁忌または慎重投与となる状態
絶対に避けるべきは化膿性関節炎の疑いです。発熱や強い熱感、関節液の混濁があるときに鑑別なくステロイドを打つと、感染が一気に悪化して関節を破壊します。コントロール不良の糖尿病、注射部位の皮膚感染、出血傾向のある方、関節置換術を受けたことがある膝も慎重投与の対象です。診察で「水が濁っている」「触ると熱い」と感じたら、まず関節液の細菌培養と血液検査が優先されます。
効果はいつから?どれくらい持続する?
即効性は「数時間〜数日」で現れやすい
ステロイド関節内注射の大きな特徴は即効性です。一般的には、注射をしたその日のうちから翌日にかけて痛みが軽くなり、2〜3日でピークの効果を感じる方が多いとされています。炎症で熱っぽかった膝のほてりが引き、正座や階段の昇り降りが楽になることもあります。
薬が関節のなかで炎症を起こしている物質(炎症性サイトカイン)を直接ブロックするため、内服薬や湿布では追いつかないような急な腫れ・強い痛みにもしっかり効きやすいのが強みです。
持続期間は数週間〜2〜3か月が目安
効果がどのくらい続くかは個人差が大きい部分です。日本整形外科学会の変形性膝関節症診療ガイドライン2023でも、短期的な痛みの改善は認められる一方で、長期的な効果は限定的と整理されています。
目安としては、注射後2〜4週間がもっとも効果を実感しやすい時期で、その後は徐々に効き目が弱まり、2〜3か月ほどで元のレベルに戻っていくケースが多いと報告されています。炎症が強い急性期ほど効果を強く感じやすく、進行した変形性膝関節症では持続が短くなりやすい傾向があります。
効果が出にくいケース
ステロイド注射を打っても痛みが変わらない、あるいはすぐに戻ってしまう場合、原因は膝の関節内の炎症だけではないかもしれません。半月板の大きな損傷、骨そのものの変形、関節の外にある腱やじん帯の問題などが関わっていると、関節内注射だけでは十分な効果が得られにくくなります。
また、軟骨のすり減りが末期まで進んでいる場合も効果は限定的です。こうしたケースでは、注射を繰り返すよりも画像検査(MRI)で原因を見直し、ほかの治療法を検討する段階に入ったサインといえます。
注射の手技|どこから刺し、どう確かめるか
膝関節は皮膚の真下に大きな空洞があるわけではなく、半月板や関節包に囲まれた狭いすき間にステロイドを正確に届ける必要があります。整形外科ではいくつかの「ポータル」(針を入れる定位置)が決まっており、患者の膝の腫れ具合や軟部組織の厚みで使い分けます。
もっとも一般的なのは前外側ポータル(superolateral approach)です。膝蓋骨の外上縁から斜め下方向に針を刺し、膝蓋上嚢へ薬液を入れます。皮膚から関節腔までの距離が短く、半月板や軟骨を傷つけにくい安全な経路として知られています。膝に水が溜まっている場合は、同じ針で関節液を抜いてからステロイドを注入する「関節穿刺+注入」を一度に行うこともあります。
近年は超音波ガイド下注射(エコーガイド)も普及してきました。プローブで関節包と滑液の貯留を確認しながら針先を可視化するため、肥満傾向のある方や関節変形が強い方でも薬液をピンポイントで関節腔内に届けられます。米国スポーツ医学会の研究では、ブラインド注射の正確率が約70〜80%なのに対し、超音波ガイド下注射では95%以上に向上したと報告されています。注射後はガーゼで圧迫止血し、5〜10分の安静を取れば帰宅できます。
ステロイド注射とヒアルロン酸注射の違い

膝の関節に打つ注射には、大きく分けてステロイド注射とヒアルロン酸注射の2つがあります。両方とも保険で受けられますが、役割はまったく異なります。消火に例えるなら、ステロイドは「火消し」、ヒアルロン酸は「関節の潤滑油」をイメージするとわかりやすいでしょう。
作用・効果・リスクを一覧で比較
| 項目 | ステロイド注射 | ヒアルロン酸注射 |
|---|---|---|
| 主な作用 | 強力な抗炎症・鎮痛 | 関節の潤滑・クッション補助 |
| 効果発現 | 数時間〜2〜3日 | 数回続けて徐々に |
| 持続期間 | 数週間〜2〜3か月 | 1〜数週間(継続で安定) |
| 回数の目安 | 年3〜4回まで、3か月以上あける | 週1回×5回、その後2〜4週間ごと |
| 主なリスク | 軟骨障害・感染・血糖上昇 | 軽い腫れ・まれに感染 |
| 向いている状態 | 急な炎症・強い腫れ・水がたまる | 軽〜中等度の慢性的な痛み |
ステロイドが「切り札」と呼ばれる理由
ヒアルロン酸は安全性が高く、長く続けやすい治療です。ただ、膝に強い炎症が起きて熱を持ち、水もたまって歩くのもつらいような急性期には、ヒアルロン酸だけでは追いつかないことがあります。
こうした場面でステロイドは、短期間で強く炎症を鎮める切り札として活躍します。逆に、慢性的に軽い痛みが続いているだけの状態でいきなりステロイドを打つと、リスクばかりが目立ってしまうため、多くの整形外科では「ヒアルロン酸や内服で様子を見る→炎症が強いときだけステロイド」という使い分けが一般的です。
併用する場合の一般的な流れ
実際には、最初に関節にたまった水(関節水腫:かんせつすいしゅ)をぬいてからステロイドを1回だけ打ち、炎症が落ち着いたらヒアルロン酸の治療に切り替える、という流れがよく行われています。ステロイドを打ったあとしばらくはヒアルロン酸と間隔をあけるなど、施設ごとのルールもあるので、スケジュールは医師に確認しておくと安心です。
副作用とリスク|打つ前に知っておきたいこと
ステロイド注射は有効な治療ですが、強い薬であるぶん副作用もあります。過度に怖がる必要はありませんが、あらかじめ代表的なリスクを知っておくと、医師と相談しやすくなります。
1. 軟骨への影響(ステロイド関節症)
もっとも注意が必要なのが軟骨への影響です。同じ関節に繰り返しステロイドを注射すると、軟骨の新陳代謝が乱れ、もろくなっていく可能性が指摘されています。これをステロイド関節症と呼びます。
海外の2年間の追跡研究では、3か月おきにステロイド注射を続けた群と、生理食塩水の偽薬を打った群とで軟骨の厚みを比べたところ、ステロイド群のほうが約0.11mm多く軟骨が減っていたと報告されています。一度の注射で大きな影響は出にくい一方で、漫然と繰り返すと膝の将来に影響する可能性があるということです。
2. 感染症(化膿性関節炎)
関節の袋のなかに針を入れる以上、細菌が入り込むリスクはゼロにはなりません。化膿性関節炎(かのうせいかんせつえん)といって、関節のなかで細菌が繁殖して強い痛み・高熱・膝の腫れが出る状態です。
発生する確率自体は数万回に1回程度と低いものの、起きると入院治療が必要になるため、注射後に「膝が熱を持って腫れる」「発熱が続く」といったサインがあれば、すぐに病院へ連絡してください。
3. 血糖値の上昇(糖尿病の方は特に注意)
ステロイドは血糖値を上げる作用があります。膝への注射は体全体への影響が比較的小さいとはいえ、注射のあと数日〜1週間ほど血糖値が高めに出ることがあります。
糖尿病で治療中の方は、注射後1〜2週間は血糖値をこまめに測る、必要に応じて糖尿病の主治医にも伝えるといった対応が大切です。HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー:血糖の1〜2か月平均)がふだんから高めの方は、事前に整形外科医にその旨を伝えましょう。
4. 注射部位の痛み・腫れ(反跳痛)
注射した当日の夜から翌日にかけて、かえって膝がズキズキ痛んだり、腫れたりすることがあります。ステロイドが関節のなかで結晶化することで起こる一時的な炎症で、反跳痛(はんちょうつう)と呼ばれます。
通常は1〜2日で自然におさまり、その後に本来の効果が出てきます。冷やして安静にして乗り切るのが基本で、3日以上続く場合や発熱をともなう場合は感染との区別が必要なので受診してください。
5. そのほかに注意したい副作用
頻度は高くありませんが、以下のような副作用も報告されています。どれも使い方次第でリスクを下げられるものなので、心配しすぎず、医師に持病や気になることを伝えておくのが一番です。
- 顔のほてり・のぼせ(ホットフラッシュ)
- 注射部位の皮膚がうすくなる・白く抜ける
- 月経周期の乱れ
- 骨粗しょう症(こつそしょうしょう)の悪化
- ごくまれに膝の骨が壊れる骨壊死(こつえし)
糖尿病・妊娠・人工関節予定の方への注意
関節内に注射されたステロイドは、ごく一部が血中に吸収されて全身に作用します。健康な人ではほぼ無視できる量ですが、もとから血糖や免疫、感染リスクに影響を受けやすい方では注意点が変わります。事前の問診で必ず申告したい3つの状況を整理します。
糖尿病の方
関節内ステロイド注射の後、血糖値は注射当日から3〜5日にかけて上昇しやすく、HbA1cが普段7%前後の方でも食後血糖が200〜300mg/dLに跳ね上がる例があります。インスリン治療中の方は単位調整が必要になることがあり、血糖自己測定を1日4回ほど続けて主治医に相談することが推奨されます。コントロール不良(HbA1c 8%以上)の場合は、まず糖尿病治療を立て直してから注射を検討します。
妊娠中・授乳中の方
関節内に投与されるステロイドは局所作用が中心ですが、妊娠初期の安全性は確立していません。米国添付文書ではトリアムシノロンは妊娠カテゴリーCに位置づけられ、リスクとベネフィットを慎重に比較する必要があります。授乳中は1回の局所注射であれば乳汁移行はわずかで、授乳を中断する必要はないとされていますが、いずれも産科主治医との連携が前提です。
人工関節置換術(TKA)が控えている方
3か月以内に膝の人工関節置換術を予定している場合、術前のステロイド注射は術後感染リスクを上げるため避けるのが原則です。Cancienzaらの大規模解析では、手術3か月以内にステロイド注射を受けた群で術後感染が約1.5倍に増えたと報告されており、米国整形外科学会も「手術前3か月は控える」ことを提案しています。
年間の回数制限と間隔の目安

日本と海外の一般的な目安
ステロイド注射には、薬の添付文書としての厳密な上限回数は記載されていませんが、臨床の現場では複数の基準を合わせて考えるのが一般的です。日本整形外科学会の変形性膝関節症診療ガイドライン2023でも、ステロイド関節内注射は短期の痛み改善には有効だが、頻回な投与は避けるべき治療として位置づけられています。
| 基準 | 年間の回数目安 | 間隔の目安 |
|---|---|---|
| 日本の整形外科クリニック(一般的) | 年3〜4回まで | 3か月以上あける |
| 米国リウマチ学会ガイドライン | 3か月ごとの投与を上限 | 最低でも3か月 |
| 日本リウマチ学会(頻回を避ける) | 明確な数字なし | 2〜4週間以上、理想は3か月 |
施設によっては「年2回まで」とより慎重なルールをとるところもあります。いずれにせよ、短期間に何度も打つ治療ではないという点は共通しています。
なぜ年間3〜4回までなのか
年間3〜4回という数字は、先ほど紹介した2年間の追跡研究のデザイン(3か月おきに注射を繰り返す)とほぼ一致しています。この頻度でも軟骨の減り方に差が出ることが報告されているため、これ以上の頻度で打つと膝への負担がさらに増える可能性がある、という考え方が背景にあります。
また、頻回に注射するということは、その分だけ感染リスクにさらされる回数も増えるということです。強い薬ほど、打つ回数と間隔の管理が治療の安全性を左右します。
「打ち続けている」方が見直したいチェックポイント
ステロイド注射を何度か受けている方は、次の3つを自分の状況に当てはめて考えてみましょう。どれか1つでも当てはまるなら、主治医とあらためて治療方針を相談するタイミングかもしれません。
- 前回の効果が2週間ももたなかった
- 年に4回以上打ちたくなる状態が続いている
- 打つたびに膝の変形や動きのかたさが進んでいる気がする
国際ガイドラインの変遷|OARSI・ACR・NICE
膝のステロイド注射に対する評価は、ここ10年で「短期治療として推奨」から「条件付きで推奨」へと慎重なトーンに変わってきました。各国の主要ガイドラインがどのように位置づけているか、最新版をまとめます。
| ガイドライン | 発行年 | 膝OAへの推奨 |
|---|---|---|
| OARSI(国際変形性関節症学会) | 2019 | 短期の症状緩和に対し条件付き推奨。長期使用は推奨しない |
| ACR(米国リウマチ学会) | 2019 | 強く推奨(中等度以上の痛みに対し短期使用) |
| NICE(英国国立医療技術評価機構) | 2022 | 他の治療で痛みが取れない場合に限り検討 |
| JOA(日本整形外科学会) | 2023 | 短期の痛み改善に有効、頻回投与は避ける |
転換点となったのが2017年のMcAlindon試験と、その後のメタ解析です。2015年のCochraneレビュー(Jüni P, et al.)でも、ステロイド注射の効果は注射後1〜2週がピークで、6か月以降はプラセボとほぼ差がなくなることが示されました。これらの結果を受け、各ガイドラインは「打つこと自体を否定はしないが、繰り返し打つ前提の戦略」からは距離を置く方向へシフトしています。
ステロイド注射に向く人・向かない人
強い切り札的な治療だからこそ、向き・不向きがあります。ご自身の状況を整理する目安として参考にしてください。最終的な判断は、レントゲンや血液検査の結果も踏まえて整形外科医が行います。
ステロイド注射が向きやすい人
- 膝が熱を持ち、水がたまって歩くのもつらい急性期の方
- ヒアルロン酸や飲み薬では痛みが抑えきれない方
- 旅行や冠婚葬祭など、短期間だけでも確実に痛みを抑えたい予定がある方
- 関節リウマチや結晶性関節炎で強い炎症が起きている方
- 手術を検討しているが、その前に痛みを落ち着かせたい方
ステロイド注射が向きにくい人・注意が必要な人
- 糖尿病で血糖コントロールが不安定な方
- 膝の皮膚に感染や傷がある方(打つ部位に細菌が入りやすい)
- 過去にステロイド注射で強いアレルギー反応を起こした方
- 短期間に同じ膝への注射を繰り返している方
- すでに軟骨のすり減りが末期まで進み、骨と骨がぶつかっている方
年齢で判断しないのがポイント
「高齢だから打てない」「若いから打てる」という単純な話ではありません。大切なのは、今の膝の炎症の強さと、全身の状態(持病やお薬)をあわせて判断することです。80代でも短期的な痛みのコントロールで大きな恩恵を受ける方もいれば、50代でも繰り返しすぎで別の治療に切り替える方もいます。
注射の流れと当日の過ごし方
当日の受診から注射までの流れ
はじめて膝にステロイドを打つ場合、多くのクリニックでは次のような流れで進みます。所要時間はトータル30〜60分程度が目安です。
- 問診と診察で、痛み・腫れの状態をチェック
- 必要に応じてレントゲンやエコー(超音波)で膝の状態を確認
- 水がたまっていれば関節液を抜く
- 消毒のうえで関節内にステロイドを注射(数分)
- 注射後に少し休んで、副作用がないかを確認
- 次回の診察予定や注意事項の説明
注射当日に守りたいこと
注射した当日は、膝を激しく使う動きを避け、家でも安静にすごすのが基本です。軽い家事や短い散歩くらいなら問題ありませんが、長時間の立ち仕事やスポーツは翌日以降に回しましょう。
お風呂は、シャワー程度なら当日からでも可能な施設が多いですが、湯船に長くつかるのは翌日以降にするのが一般的です。感染予防のため、注射した部位を強くこすらない、ばんそうこうが指示されている場合は自己判断ではがさない、といった点も心がけてください。
注射の翌日以降に気をつけたいサイン
以下のようなサインがあれば、必ず注射を受けた医療機関に連絡してください。多くは一時的な反応ですが、感染の可能性もゼロではないため、自己判断で様子を見すぎないことが大切です。
- 注射から2〜3日たっても膝の腫れと強い痛みが続く
- 38度以上の発熱がある
- 膝全体が赤く熱を持っている
- 足首より下がしびれる、力が入りにくい
次回の予約までに準備しておきたいこと
次の注射や再診までの期間は、ただ待つのではなく「今回の注射でどのくらい楽になったか」を記録しておくのがおすすめです。日付、歩ける距離、階段の昇り降り、夜間の痛みなどをメモしておくと、医師が効果を客観的に判断しやすくなります。
保険適用と自費の境界|費用の目安
日本では、ステロイド関節内注射は変形性膝関節症や関節リウマチ、結晶性関節炎などの「病名」に対して健康保険の対象となります。診察料・処置料・薬剤費を含めた1回あたりの自己負担は、3割負担で500〜1,500円、初診や検査が加わっても3,000円前後で収まるのが一般的です。
保険でカバーされる範囲
保険診療では、薬剤としてトリアムシノロン40mg(ケナコルト-A)、ベタメタゾン2〜4mg(リンデロン)、メチルプレドニゾロン40mg(デポ・メドロール)などが認められており、関節穿刺料(120点)と注入手技料(80点)が算定されます。週単位で何度も打つ通院や、対象疾患に該当しない予防的投与は、保険診療として認められません。
自費診療との境界
ステロイド注射そのものは自費に切り替える必要はほぼありませんが、超音波ガイド下注射の使用料、PRP療法・APS療法・幹細胞治療など再生医療系の併用は自費になります。また、ヒアルロン酸が保険上限の月数を超えた場合や、画像診断が頻回になった場合に、一部費用が自費へ振り替えられることがあります。費用が高額に感じたら、明細書で「保険診療外」の項目があるかを確認しましょう。
ステロイドが効かなくなったときの次の選択肢
ステロイド注射の効果がだんだん短くなってきた、打つ間隔がどんどん縮まってきた。そんな場合は、膝のなかで起きている変化が、炎症を抑えるだけでは追いつかない段階に来ている可能性があります。主な選択肢は3つです。
1. ヒアルロン酸注射に戻す・続ける
炎症のピークを越えたら、ヒアルロン酸注射に切り替えて関節の環境を整える方法です。軟骨へのリスクが少なく、年齢や持病に関係なく続けやすい治療で、ステロイド注射で火消しをした後のメンテナンスとして位置づけられます。週1回×5回を1クールとし、その後は2〜4週間に1回の頻度で続けるのが一般的です。
2. PRP療法(自費診療)
PRP(Platelet-Rich Plasma:多血小板血しょう)とは、自分の血液から血小板を濃縮し、その成長因子を膝に注射する再生医療のひとつです。炎症を抑えるだけでなく、組織の修復を助ける働きが期待されています。
自費診療で1回あたり5〜15万円ほどかかるのがネックですが、国内の臨床報告ではヒアルロン酸より効果の持続が長いケースも見られています。保険診療の注射で追いつかなくなり、かつ手術はまだ避けたい方が検討する中間的な選択肢といえるでしょう。
3. 手術(関節鏡・骨切り・人工関節)
軟骨のすり減りが進んでいる場合は、手術も視野に入ってきます。症状と変形の度合いで選べる術式が変わります。
| 手術の種類 | 対象の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 関節鏡(かんせつきょう)手術 | 半月板の引っかかりなど局所的な問題 | 体への負担が少なく入院も短い |
| 高位脛骨骨切り術(HTO) | 比較的若くO脚変形のある方 | 自分の関節を残せる手術 |
| 人工膝関節置換術(TKA/UKA) | 中等〜重度の変形で強い痛みが続く方 | 痛みが大きく改善、入院2〜3週間 |
手術はハードルが高く感じるかもしれませんが、最近は最小侵襲(さいしょうしんしゅう:傷が小さく体への負担が少ない)の方法が広まり、入院期間も短くなってきました。痛みで生活が大きく制限されているなら、早めに一度、手術も選択肢として話を聞いておくと、判断しやすくなります。
どう選べばいいか迷ったときは
選択肢が多くてかえって迷う、という方は、「今の生活でいちばん困っていることは何か」をはっきりさせると選びやすくなります。出かけられないのがつらい、夜眠れないのがつらい、旅行を楽しみたい、孫を抱っこしたい。目的が具体的になるほど、医師とも相談しやすくなります。
よくある質問
よくある質問
Q1. 1回打ったら必ず何回か続けて打つ必要がありますか?
いいえ、ヒアルロン酸のように「週1回×5回」と決まった回数はありません。1回打って痛みが落ち着けば、そのまま様子を見るのが基本です。むしろ「続けて何回も打つ」治療ではないと考えてください。
Q2. ステロイド注射は保険が使えますか?
はい、変形性膝関節症や関節リウマチなど対象となる病気であれば、健康保険が使えます。自己負担は1〜3割で、注射代と薬剤費を合わせて1回500〜2,000円程度が目安です。初診料や検査代は別途かかります。
Q3. お酒を飲んでも大丈夫ですか?
少量であれば多くの場合問題ありませんが、注射の当日は血流がよくなる飲酒や長湯は控えめにしましょう。血糖が上がりやすい期間でもあるため、糖尿病の方は主治医の指示に従ってください。
Q4. ステロイド注射をした日に運動しても大丈夫ですか?
当日は激しい運動は避け、膝を休ませるのが基本です。ウォーキングや軽い家事程度なら問題ないことが多いですが、スポーツや長時間の立ち仕事は翌日以降にずらしましょう。
Q5. ステロイドで太る、顔が丸くなるといった副作用はありますか?
飲み薬や点滴のように全身に作用するステロイドでは、むくみや体重増加、顔が丸くなる満月様顔貌(まんげつようがんぼう)が有名です。膝の関節内注射は局所への投与で量も少ないため、こうした全身性の副作用は比較的出にくいとされています。
Q6. 打った日に膝が前より痛くなりました。失敗でしょうか?
注射後1〜2日は、ステロイドの結晶が関節内で一時的に炎症を起こす反跳痛(はんちょうつう)が出ることがあります。多くは2〜3日で自然におさまり、その後に本来の効果が出てきます。3日以上続く強い痛みや発熱がある場合は、必ず受診してください。
Q7. ステロイド注射を打ったらヒアルロン酸は打てませんか?
打てないわけではなく、施設ごとのルールで間隔をあけて併用することがあります。ステロイドで炎症を鎮めてから、数週間後にヒアルロン酸に切り替える流れが一般的です。具体的なスケジュールは主治医に確認しましょう。
参考文献・出典
- [1]
- [2]
- [3]Effect of Intra-articular Triamcinolone vs Saline on Knee Cartilage Volume and Pain (McAlindon TE, et al., JAMA 2017)- JAMA
3か月ごと2年間のステロイド注射で軟骨容量がプラセボ群より有意に減少したことを示した無作為化比較試験。
- [4]
- [5]Knee Arthritis Made Worse by Steroid Injections, Study Finds (RSNA 2025)- 北米放射線学会(RSNA)
MRIによる2年追跡で、ステロイド注射群の軟骨損傷進行が対照・ヒアルロン酸群より加速したとの研究報告。
ステロイド注射は炎症が強いときの切り札ですが、打つ回数を減らすためには日々の膝のケアも欠かせません。体重管理や太ももの筋肉を保つこと、軟骨の材料となる栄養をとることは、注射の効果を長持ちさせる土台になります。膝の健康を内側からサポートしたい方は、食事にプラスするサプリメントも選択肢のひとつとして検討してみてください。
まとめ|ステロイド注射は「切り札」として賢く使う
膝のステロイド注射は、強い炎症と急な痛みに対して数日で効果を実感できる頼もしい治療です。一方で、繰り返し打つと軟骨がもろくなる可能性や、感染・血糖値の上昇といった副作用もあり、年3〜4回まで・3か月以上の間隔が一つの目安とされています。
ヒアルロン酸は「日常の潤滑油」、ステロイドは「炎症の火消し」と役割が違います。両者を組み合わせて、急性期はステロイドで火消しをし、落ち着いたらヒアルロン酸でメンテナンスをするのが今の標準的な流れです。
「何度打っても効きが短い」「年に何回も打ちたくなる」という状態は、次の治療に進むサインかもしれません。PRP療法や手術など別の選択肢も視野に入れながら、主治医と一緒に長期的な膝の計画を立てていきましょう。日常では体重管理・筋力維持・栄養の補給という地道なケアを続けることが、注射の回数を減らすいちばんの近道です。
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