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ピボットシフトテスト

前十字靭帯損傷を評価する徒手検査。膝を伸展位から屈曲する際の脛骨亜脱臼の還納を触知する。

ポイント

ピボットシフトテストとは

ピボットシフトテスト(ぴぼっとしふとてすと、英: Pivot Shift Test)とは、前十字靭帯(ACL)損傷を診断する徒手検査です。下腿に内旋と外反を加えながら膝を屈伸させ、脛骨の急激な前方亜脱臼と整復現象(pivot shift現象)の有無で判定します。ACL損傷の動的不安定性を直接評価する唯一の検査で、特異度100%近くと最も信頼性の高いACL診断検査ですが、急性期は疼痛と筋緊張で評価困難な場合が多いです。

目次

ピボットシフトテストの定義と医学的位置づけ

ピボットシフトテスト(Pivot Shift Test)は、1972年にカナダのGalwayとMacIntoshによって提唱された前十字靭帯(ACL)損傷の診断のための徒手検査です。ACL損傷時に生じる脛骨の前方亜脱臼と腸脛靭帯による整復という動的不安定性を再現する検査で、ACL損傷の確定診断における最も特異度の高い臨床検査として位置づけられています。日本整形外科学会のスポーツ医学ガイドラインでも標準診察手技として記載されています。

検査の理論的背景は、ACLが断裂すると膝関節伸展位で脛骨が前方に亜脱臼し、屈曲30度付近で腸脛靭帯の作用により急激に整復される(pivot shift現象、ピボットシフト現象)という生体力学に基づきます。この亜脱臼と整復の感覚または「ガクッ」という現象(clunk)を検者が触知することで陽性と判定されます。Lachmanテストや前方引き出しテストが静的不安定性を評価するのに対し、ピボットシフトテストは動的不安定性を直接評価する点が特徴です。

診断感度は約25〜80%と幅がありますが、特異度は95〜100%と非常に高く、陽性であればACL損傷の可能性が極めて高いとされます。麻酔下では感度が90%以上に上昇するため、手術中の麻酔下評価が信頼性の高い診断手段となります。MRIや関節鏡検査と組み合わせることで、合併損傷(半月板損傷、内側側副靭帯損傷等)も含めた総合的な診断が可能になります。

ピボットシフトテストの実施手順と判定

実施手順は次の通りです。患者は仰向けの状態で、検者は片手で患者の足首を内旋させながら把持し、もう片方の手で膝の外側下から外反力を加えます。膝伸展位から徐々に屈曲していく途中、屈曲約20〜30度付近で脛骨の急激な後方への整復(亜脱臼が解除される瞬間)を触知できれば陽性と判定します。MacIntosh法、Losee法、Slocum法など複数の手技がありますが、本質的な検査原理は共通です。

判定はⅠ〜Ⅲ度の3段階で行われます。Ⅰ度(軽度)は滑らかな滑り(glide)、Ⅱ度(中等度)は明確な「ガクッ」とした整復(clunk)、Ⅲ度(重度)は強い亜脱臼と整復(gross subluxation)です。グレードが高いほど不安定性が強く、合併損傷(特に外側半月板損傷)の頻度が高くなる傾向があります。

注意点として、急性期の強い疼痛・腫脹・筋緊張(防御性筋収縮)により陽性所見が得られにくいことが多く、感度が大きく低下します。慢性期の患者ではより信頼性の高い判定が可能です。麻酔下では筋緊張が消失するため検査精度が高まり、術前麻酔下評価や術中評価でゴールドスタンダードとして使用されます。検査の習熟には経験が必要で、専門医による評価が推奨されます。

ピボットシフトテストの意義

ピボットシフトはACL機能を「動的に」評価する唯一の徒手検査で、健常者では生じず、ACL断裂例の特徴的な所見である。患者が訴える「膝崩れ感」を医学的に再現するため、ACL損傷の機能的重症度評価に直結する。覚醒下では筋緊張で誘発されにくいため、麻酔下評価で陽性度を客観化することもある。

テスト陽性は「Grade 1(わずかなずれ)」「Grade 2(明確なクランク)」「Grade 3(高度な亜脱臼)」のように段階評価され、ACL再建術後にも術後安定性の指標として継続的に評価される。再建術後のピボットシフト陰性化は機能予後と強く相関するため、リハビリ後期の重要なアウトカムとして用いられる。手技に習熟が必要なため、専門医が行うのが標準となる。

ピボットシフトテストによくある質問

QピボットシフトテストとLachmanテストはどう違いますか?

両者ともACL損傷の診断検査ですが、評価する不安定性の種類が異なります。Lachmanテストは静的な前方移動量を評価し感度が高い検査です。ピボットシフトテストは動的な不安定性(亜脱臼と整復現象)を評価し特異度が極めて高い検査です。臨床では両者を組み合わせて診断します。

Qなぜ急性期に検査が難しいのですか?

急性期は強い疼痛と関節血腫による腫脹、防御性筋収縮(無意識の筋緊張)により膝の動きが制限されるためです。検査による不安定性の誘発が困難になり感度が低下します。受傷後1〜2週間経過した亜急性期や麻酔下では、より信頼性の高い判定が可能になります。

Q陽性なら必ず手術が必要ですか?

いいえ。ACL損傷後の手術適応は不安定性の程度、年齢、活動レベル、合併損傷、患者の希望等を総合判断して決定します。デスクワーク中心の患者では保存療法で十分な場合もありますが、スポーツ復帰希望者や強い不安定性がある場合は再建術が検討されます。

Q自分でテストできますか?

自分での実施は推奨されません。検査には技術と経験が必要で、自己判断による過剰な動作は損傷を悪化させるリスクがあります。膝の「ガクッ」と崩れる感覚(giving way)、外傷後の関節血腫、急速な腫脹などACL損傷を疑う症状があれば、整形外科を受診し専門医による評価を受けてください。

参考文献・出典

  • [1]
    スポーツによる膝の傷害- 日本整形外科学会

    膝靭帯損傷の診断と治療に関する公式情報。徒手検査の位置づけも記載

  • [2]
    The pivot shift: a global user guide- PubMed (Knee Surgery Sports Traumatology Arthroscopy)

    ピボットシフトテストの手技と判定基準に関する系統的レビュー論文

  • [3]
    膝の靭帯損傷- MSDマニュアル プロフェッショナル版

    膝靭帯損傷の診断・治療に関する医療従事者向け公式マニュアル

  • [4]
    前十字靭帯損傷の診断検査- 日本臨床整形外科学会雑誌

    ACL損傷の徒手検査の最新エビデンスに関する整形外科専門医向け総説

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執筆者

ひざ日和編集部

編集部

膝の健康に関する情報を発信。医学的な根拠と専門家の知見をもとに、膝の痛みや不調に悩む方に役立つ情報をお届けしています。